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決壊したこの場所を復興のシンボルに

2020.11.20

決壊したこの場所を復興のシンボルに

青々とした苗がまぶしい梅雨の晴れ間。
今年6月、
倉敷市真備町でその男性は、田植えに汗を流していました。
男性が先祖代々受け継いできた田んぼは、一昨年の西日本豪雨で決壊した小田川堤防のそばにあります。
その年は田んぼが土砂で埋まって米作りはできませんでした。

私が男性と初めて会ったのは豪雨から3カ月後。
田んぼそばの自宅は2階まで浸水して全壊。
20km離れた仮設住宅から通いながら片付けをしている中、取材に応じてくれました。
心境を聞こうとマイクを向けると、こんな答えが返ってきました。

「この決壊場所を復興のシンボルにしたいんです」。

復興とはほど遠い現実を前に思いもよらない言葉でしたが、
その後、男性の口から出た計画に私の心は強く動かされました。
それは地区一帯を堤防の高さにかさ上げし、宅地にするというもの。
堤防の幅を私有地で拡幅する何とも大胆な発想で、
実現には費用や住民の合意など解決すべき問題が山ほどありました。
しかし男性は、その実直な性格と強い信念で、それに立ち向かっていきます。

今年10月、男性の田んぼは黄金色に染まり、
豪雨から2回目の稲刈りを迎えていました。あの計画の実現にはまだ時間が掛かりそうですが、
豪雨からよみがえった田んぼの実りは未来にこんな希望をつないでくれます。

 ここはきっと復興のシンボルになる—。

執筆:小林宏典(OHK報道部)
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