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被災した1本の筆から未来へのエールを

2021.01.22

被災した1本の筆から未来へのエールを

倉敷市真備町の2カ所に、

「がんばろう真備」

と書かれた看板があるのを知っていますか。

その文字を書いたのは、町内に住む96歳の加藤久子さん。
西日本豪雨の復興に向かう被災者を元気づけてほしいと、ボランティアの男性に頼まれました。

孫やひ孫と暮らす加藤さんの自宅は浸水。
外にかき出された泥の中から加藤さんは大切にしていた1本の筆を見つけ出しました。
感染症が心配だからと家族に止められたものの、諦められず内緒で持ち帰ったのです。

実は加藤さん、約30年間小学校の教師をしていました。
分かりやすく力強い加藤さんの文字は、子どもたちへの愛があふれています。
退職後は公民館で書道を教えたり、シルバー人材センターから依頼される講演会の演題などを書いてきました。
加藤さんには、上皇さまが生まれた当時、歌を歌ってお祝いした記憶があるといいます。
被災した真備町を訪問された上皇ご夫妻にお礼の米を献上する際、加藤さんに目録を書いてほしいとの依頼もありました。

あの看板の文字を書いたのは、まだ暑さの残る町外の避難先。

「泥だらけの筆1本があったから引き受けることができた」と加藤さんは言います。

筆を握りしめ真備町での再起を誓った加藤さんは、自分に言い聞かせるように書きました。

がんばろう―。

静かに町の復興を見守る看板のメッセージ。
それは、いくつになっても決して諦めることのない、
人生の大先輩からの全力のエールだったのです。

執筆:竹下 美保(OHK報道部)
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